ADHD(注意欠如・多動症)の治療は、一つの方法だけで完結するものではなく、薬物療法と心理社会的治療を組み合わせ、個々のニーズに合わせて多角的にアプローチすることが一般的です。そして、これらの治療は、医師(精神科医、児童精神科医、小児科医など)だけでなく、臨床心理士、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカー、教師といった様々な専門家が連携して行われます。薬物療法は、ADHDの症状(不注意、多動性、衝動性)を緩和し、日常生活や学習における困難を軽減することを目的として行われます。主に用いられるのは、中枢神経刺激薬(メチルフェニデートなど)と非中枢神経刺激薬(アトモキセチン、グアンファシンなど)です。これらの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを調整することで、集中力や注意力を高めたり、衝動的な行動を抑えたりする効果が期待できます。薬物療法は、必ず医師の診断と処方のもとで行われ、効果や副作用を定期的に確認しながら、薬の種類や量を調整していきます。一方、心理社会的治療は、ADHDの特性を持つ人が、より社会に適応しやすくなるためのスキルを身につけたり、環境を調整したりすることを目的とします。代表的なものに、認知行動療法があります。これは、自分の思考や行動のパターンに気づき、より建設的なものに変えていくためのトレーニングです。その他、ソーシャルスキルトレーニング(SST)では、対人関係やコミュニケーションのスキルを学びます。ペアレントトレーニングは、保護者が子どものADHD特性を理解し、効果的な関わり方を学ぶためのプログラムです。環境調整も重要で、例えば、学校や職場において、集中しやすい環境を整えたり、指示の出し方を工夫したりといった配慮が求められます。これらの心理社会的治療は、臨床心理士や作業療法士、言語聴覚士などの専門家が中心となって行われますが、医師もその計画や評価に関わります。ADHDの治療は、薬物療法と心理社会的治療が車の両輪のように連携し、本人、家族、そして関係機関が協力し合うことで、より効果的に進めることができます。