かかとの後ろ、特にアキレス腱とかかとの骨の間のあたりが腫れて痛む場合、「アキレス腱滑液包炎(アキレス腱後滑液包炎)」の可能性があります。滑液包とは、体内の様々な場所に存在し、腱や筋肉、骨などが擦れ合う部分で潤滑油のような役割を果たし、摩擦を軽減する袋状の組織です。アキレス腱の付着部付近にも、アキレス腱とかかとの骨の間、そしてアキレス腱と皮膚の間などに滑液包が存在します。このうち、アキレス腱とかかとの骨の間にある滑液包が炎症を起こした状態がアキレス腱滑液包炎です。主な症状は、かかとの後ろ側の腫れ、赤み、熱感、そして圧痛(押すと痛い)です。歩行時や運動時、特に靴のかかと部分が当たることで痛みが増悪することが多いのが特徴です。このアキレス腱滑液包炎の最大の原因として挙げられるのが、不適切な靴の使用です。かかと部分が硬い靴、サイズの合わない靴、ヒールの高い靴などを長時間履き続けることで、滑液包が繰り返し圧迫されたり、摩擦されたりして炎症が起きます。特に、新しい靴を履き始めた時や、普段履き慣れない靴を履いた時などに発症しやすい傾向があります。また、ランニングなどのスポーツによる繰り返しの負荷や、アキレス腱の柔軟性の低下、扁平足や外反母趾といった足の変形も、滑液包への負担を増やし、炎症を引き起こす要因となり得ます。治療の基本は、まず原因となる靴の使用を中止し、患部への刺激を避けることです。クッション性の良い、かかと部分が柔らかい靴を選び、必要であればヒールパッドなどを利用して、かかとへの負担を軽減します。痛みが強い場合は、アイシングや消炎鎮痛剤(湿布や塗り薬など)で炎症を抑えます。症状が改善しない場合や、繰り返し発症する場合には、ステロイド注射や、稀ですが手術が検討されることもあります。