顔面神経麻痺と診断された場合、その治療は、原因や重症度、発症からの期間などによって異なりますが、できるだけ早期に開始することが、良好な回復のためには重要です。主な治療法としては、薬物療法、リハビリテーション、そして場合によっては手術療法があります。まず、薬物療法ですが、顔面神経麻痺の最も一般的な原因であるベル麻痺やハント症候群に対しては、発症早期(理想的には72時間以内)からステロイド薬の全身投与(内服または点滴)が行われるのが標準的な治療法です。ステロイド薬には、顔面神経の炎症やむくみを抑え、神経のダメージを軽減する効果があります。ハント症候群の場合は、これに加えて抗ウイルス薬(アシクロビルやバラシクロビルなど)が併用されます。その他、神経の回復を助けるためにビタミンB12製剤や、血流を改善する目的で血流改善薬などが処方されることもあります。薬物療法と並行して重要なのが、リハビリテーションです。顔面神経麻痺のリハビリテーションは、麻痺した顔の筋肉の動きを促し、拘縮(こうしゅく:筋肉が硬くなること)や病的共同運動(例えば、口を動かすと目が閉じてしまうといった、意図しない動きが一緒に出てしまうこと)といった後遺症を予防・軽減することを目的とします。具体的な方法としては、鏡を見ながら行う顔面筋のマッサージやストレッチ、表情筋のトレーニング(眉を上げる、目を閉じる、口をすぼめる、頬を膨らませるなど)があります。ただし、麻痺が強い時期に過度な運動を行うと、かえって病的共同運動を助長する可能性もあるため、必ず医師や理学療法士、作業療法士の指導のもとで、適切な時期に適切な方法で行うことが大切です。また、目が完全に閉じない場合は、角膜の乾燥や損傷を防ぐために、人工涙液の点眼や眼軟膏の使用、就寝時の眼帯の装用などが行われます。これらの保存的治療で十分な回復が見られない場合や、神経の損傷が重度である場合には、神経減荷術(顔面神経管開放術)や神経縫合術、神経移植術といった手術療法が検討されることもあります。